「氷をガリガリ食べてしまう」じつは栄養不足が原因かも?不足すると疲れやすさ・貧血などの不調を引き起こす栄養素とは【医師解説】

では、鉄が足りないと体にどのような変化が起こるのでしょうか。役割や不足のサイン、効率的な摂り方について、林外科・内科クリニックの林裕章理事長に解説してもらいました。
医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
目次
鉄は人体に対してどのような役割があるのでしょうか?
鉄は人体にとって必要不可欠なミネラルであり、主に「全身に酸素を運ぶ」という生命維持の根幹に関わる重要な役割を担っています。
成人の体内には約3〜4gの鉄が存在していますが、そのうちの約60〜70%は血液中の赤血球に含まれる「ヘモグロビン」の構成成分として働いています。ヘモグロビンは肺で酸素と結びつき、血流に乗って脳や筋肉、内臓など全身のあらゆる組織へ酸素を送り届けるという、いわば「酸素の運び屋」です。
また、残りの鉄の一部は筋肉中の「ミオグロビン」というタンパク質に存在し、血液から受け取った酸素を筋肉内に一時的に貯蔵し、運動時などに必要なエネルギーを生み出すために使われます。
さらに、鉄は細胞内でエネルギーを作り出す酵素の一部としても働いており、酸素の運搬だけでなく、体を動かすための代謝そのものにも深く関わっています。
鉄が不足すると、人体にどのような悪影響があるのでしょうか?
鉄が不足すると、まず体内の貯蔵鉄が減り、さらに進むとヘモグロビンが作れなくなって鉄欠乏性貧血になります。すると、全身の細胞に十分な酸素が行き渡らなくなるため、以下のような不調や症状が現れます。
- 全身の症状: 慢性的な疲労感、だるさ、倦怠感、朝すっきりと起きられない
- 心肺機能の症状: 少し動いただけで起こる動悸、息切れ(階段を上るのが辛いなど)
- 神経・脳の症状: めまい、立ちくらみ、頭痛、集中力や記憶力の低下、気分の落ち込み
- 見た目の変化: 顔色や唇の色が悪い(蒼白)、まぶたの裏(結膜)が白っぽい
さらに、貧血が進行すると特異な症状が現れることがあります。
たとえば、食べ物ではないもの(とくに氷)を無性に食べたくなる「氷食症(ひょうしょくしょう)」や、爪がスプーンのように反り返って割れやすくなる「スプーン爪(匙状爪甲)」、舌がツルツルになって痛む「舌炎」や、食道の粘膜変化によって飲み込みにくさを感じる「Plummer-Vinson症候群」も鉄不足に関連する症状です。
また、夜間に脚がムズムズして眠れなくなる「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」の原因のひとつにも、脳内の鉄欠乏が挙げられます。これらは貧血による症状でもあり、また貧血の結果としての悪影響でもあります。
自身が鉄不足かどうかを知るためのサインがあれば教えてください
鉄不足や貧血は、原因にもよりますが、徐々に進行し体がその状態に慣れてしまい、初期の段階では自覚症状に乏しいことも少なくありません。
しかし、日常のちょっとした変化が「鉄不足のサイン」となっていることがあります。以下の項目に当てはまるものがないかチェックしてみてください。
- 無性に氷をガリガリ食べたくなる(冬でも氷を好んで食べる)
- 爪が平らになってきた、または反り返ってきた(スプーン爪)、爪が割れやすい
- 階段を上る時や軽い運動で、以前より息切れがしやすくなった
- 舌の痛みや飲み込みにくさを感じる
- 髪の毛が抜けやすくなった、肌がカサカサする
- 夕方や就寝前になると、脚の奥がムズムズ、ソワソワしてじっとしていられない
- 十分な睡眠をとっても疲れが取れない、常にだるい
これらの原因のひとつとして、鉄不足や貧血の場合があります。また、知っておいていただきたいのが「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏)」の存在です。
健康診断の一般的な血液検査では「ヘモグロビン(Hb)」の数値しか見ないことが多く、これが正常範囲内だと「貧血なし」と判定されます。
しかし、実際にはHbが正常範囲内であっても、体内の貯蔵鉄(通常「フェリチン」で評価)がすでに枯渇しており、さまざまな不調の原因となっているケースがみられることもあります。
また、成人男性や閉経後女性の鉄欠乏では、月経以外の原因、とくに消化管出血などを考える必要があります。
これらのような不調が続く場合は、医療機関で相談することをおすすめします。
鉄を効率的に摂取する方法について教えてください
鉄は体内で作ることができないため、日々の食事から効率よく摂取することが不可欠です。
食品に含まれる鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、それぞれの特徴を理解して組み合わせることがポイントです。
- 吸収率の高い「ヘム鉄」を積極的に摂る
肉類や魚類などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」は、比較的吸収されやすいのが特徴です。レバー(豚、鶏、牛)、赤身の肉、カツオやマグロなどの赤身魚、アサリなどに豊富に含まれています。
- 「非ヘム鉄」はビタミンCやタンパク質と一緒に摂る
野菜、海藻、大豆製品などの植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」(ほうれん草、小松菜、ひじき、納豆など)は、吸収されにくいため、工夫が必要です。
ビタミンC(ブロッコリー、パプリカ、柑橘類など)や動物性タンパク質(肉、魚、卵)と一緒に摂取することで、腸での吸収率が大幅にアップします。
- 吸収を阻害する成分に注意する
緑茶やコーヒー、紅茶に含まれる「タンニン」は、鉄(特に非ヘム鉄)の吸収を妨げる可能性があります。
鉄欠乏がある方や鉄剤を服用中の方は、食事の前後30分〜1時間程度はこれらの飲み物を控えると安心です。ただし、健康な方が通常量のお茶やコーヒーを食事中に飲む程度であれば、過度に心配する必要はありません。
- 鉄製の調理器具を活用する
鉄瓶でお湯を沸かしたり、鉄のフライパンや鍋で調理したりすることで、微量ながら食品に鉄分が溶け出し、あくまでも補助的にですが、毎日の継続的な摂取に繋がります。
ちなみに…「ひじきは鉄分たっぷり」は、少し昔の常識
「鉄分をとるなら、ひじき」と思っている方は多いかもしれません。じつはこれ、半分正しくて、半分は昔の話です。
以前のひじきは、製造の途中で鉄の釜を使うことが多く、その影響で鉄分が多く測定されていました。ところが今はステンレス釜が主流になり、文部科学省の食品成分表でも、ひじきは「鉄釜」と「ステンレス釜」に分けて載せられています。
現在よく見られるステンレス釜の乾燥ひじきの鉄は100gあたり6.2mgで、昔のイメージほど“鉄の王様”という感じではありません。
つまり、「ひじきそのものがすごく鉄だらけ」というより、昔は作り方の影響が大きかったということです。
もちろん、ひじきが悪い食品というわけではありません。食物繊維なども含む良い食材です。ただ、鉄をしっかりとりたいなら、ひじきだけに頼らず、赤身の肉や魚、貝、大豆製品なども一緒に考えるのがおすすめです。
もし、食事の工夫だけでは症状が改善しない場合や、自覚症状が強い場合は、自己判断で市販のサプリメントに頼りすぎず、必ず医療機関(内科や婦人科)を受診してください。
医師の診断のもと、ご自身の状態に合わせた適切な鉄剤の処方を受けることが、最も確実で安全な解決策となります。
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