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「先延ばしにしたら、人生はあっという間に終わる!」がん闘病中のベッドで書いた事業計画書から生まれた医療用ケア帽子がつなぐ笑顔の輪

公開日: 2026年08月21日
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2021年、子宮頸がんの手術を受け、わずか1か月しか経っていなかった原まゆみさん。彼女が入院中のベッドの上で書いていたのは、新事業のための「事業計画書」。がんなどの治療により、髪の毛が抜けてしまう人のためのおしゃれなケア帽子の開発に取り組み始めたのです。

「可愛くて、つけ心地のいい医療用ケア帽子を、抗がん剤治療で髪の毛を失った人たちに届けたくて」と笑う原さんですが、闘病中に事業を展開したパワフルさに驚かされます。なぜここまで情熱を注げたのか。原さんの想いを聞きました。

抗がん剤治療中、病院のベッドで事業計画書を作成

入院中、仲良くなった看護師からたくさん意見をもらった
入院中、仲良くなった看護師からたくさん意見をもらった

原さんが手がけるのは、見た目が可愛く、つけ心地もいい医療用ケア帽子ブランド「BAREN(バレン)」です。

スカーフハットは、生地もオリジナルの柄を作るこだわりよう。原さん自身、抗がん剤治療を受けた際、髪の毛を失う「ヘアロス」を経験しました。


「抗がん剤治療を受ける前は、病院から医療用ウィッグや医療用ケア帽子を用意してほしいと言われます。でも、さまざまなものを買い求めても、つけ心地はイマイチ、見た目も可愛くない…と、納得できるものがありませんでした。

看護師さんに相談すると『医療用ウィッグや医療用ケア帽子が合わずに悩んでいる患者さんは多いんですよ』と言われて。もし、可愛くて使いやすい医療ケア帽子を開発したら、絶対に売れると確信しました。事業として商品展開して、たくさんの人に手を取ってもらおうと決めたんです」


原さんが事業計画書を書き始めたのは、手術からわずか1か月後。まだ、病気への不安も大きかった時期だったはず。

なぜ、ここまでスケールの大きな話を実行しようと思ったのでしょうか。


「生死にかかわる病気にかかると、命には限りがあると実感するんです。今、この瞬間の大切さを痛感するというか…。先延ばしにしていると、あっという間に人生が終わってしまう、だったらまずは行動しなくては…と、考えました。入院中は、ずっとパソコンとにらめっこ。ひたすら集中して事業計画書を書いていたので、看護師さんたちからは『原さんのベッドだけ、他の人とはちょっと雰囲気が違うわね』と言われていたみたいです」

これまでのキャリアを総動員して、ひとり起業

新作が出るたび、あっという間に完売になることも多い
新作が出るたび、あっという間に完売になることも多い

もともと原さんは好奇心旺盛なタイプ。これまでの経歴を聞くと、もともと「思い立ったが即行動」していたのが伝わります。

新卒では大手出版社に入社。数年を過ごす間に、ウェブデザインの仕事に惹かれるように。デザインを学び、転職してウェブデザイナーとして働き始めました。

結婚後は、自宅のリノベーションをきっかけに、二級建築士とインテリアコーディネーターの資格を取得。オーダー家具ブランドのベンチャー企業で、インテリアデザイナーの仕事に携わってきました。


「これまでのキャリアや、自分ができることの棚卸しをしてみると『あ、私はひとりで事業を立ち上げられる』と気づいたたんです。ベンチャー企業で働いていたとき、他の社員が新しく事業を立ち上げる様子を見ていました。しかも私は、ウェブデザイナーとして、自分でホームページも作れます。今まで経験してきたことが、パズルみたいにうまくはまった瞬間でした。

資金は公的機関からスタートアップ支援を受けられることに。もちろん、家族にも新事業立ち上げを考えていると伝えました。夫は最初、ハンドメイドサイトなどで少しだけ販売する形をイメージしていたようです。それが、私が資金調達をし始め、思った以上にスケールの大きなことに取り組んでいると気づいたようで、ビビッていました (笑)。でも、熱意が通じ、応援してくれるように」


しかし、唯一なかったのがアパレルの経験。原さんひとりでは帽子を作れなかったため、協力してくれるOEM業者(他社ブランドの製品を製造する企業のこと)を探しました。

30社以上の企業と商談をしたものの、コスト面や、前例がないことなどを理由に、次々と断られてしまいます。

それでも、原さんは決してあきらめませんでした。アプローチを続けたところ、社長自身ががんを経験したことのあるアパレル企業が、原さんの想いに共感してくれ、協力してくれることになったのです。


「帽子作りは何度も修正を繰り返しました。ようやくイメージするものができあがるまでに1年半もかかりました。また、最初は既製品の生地を使っていましたが、洗いやすくて軽くて可愛いという条件に合うものがあんまりなくて…。さんざん探したけれど、ついには、自分で柄のデザインも始めました。

オリジナル柄は1度に300メートルくらい作らないといけないんです。なかなか大変ではあるのですが、使い心地と可愛さには妥協できないです」

月1000個以上販売。リピーター率6割の圧倒的支持

公式サイトでは原さん自身がモデルとなって着こなし例も
公式サイトでは原さん自身がモデルとなって着こなし例も

原さんの想いとこだわりが詰まった帽子は「BAREN」というブランド名で、2023年から販売を開始しました。

BARENの商品は、病気の治療で髪の毛を失い、悩んでいる人たちから、絶大な支持を集めています。


「おかげさまで1,000個以上売れる月もあり、これまでに 5,000件以上のレビューをいただいています。リピーター率は6割以上。『こんなケア帽子を待っていた!』と、前向きな声もたくさん寄せられていて、やっぱりおしゃれをして気持ちが上がると、闘病も頑張ろうという気持ちになるんですよね。

『診断を受けてからずっと家に引きこもっていたけれど、帽子を見せたくてお出かけをした』というお話を聞くこともあります。前向きになった患者さんの声を聞くと、飛び上がりたくなるほどうれしいです。やっぱり、病気になると落ち込むし、先のこともいろいろと考えてしまいがち。それが、私の作った帽子がきっかけで、前を向いてくれるようになるなんて。おしゃれは心のビタミンなんだと感じます


BARENのスカーフハットは16,300円、部分ウィッグは3,000円台と、比較的気軽に購入できる価格でもあります。

1人で何種類も買ってくれる「BARENコレクター」とも言うべき存在も多いのだとか。


「いくつも購入して、その日の気分で選んでいるというお客様もいます。これまで女性向けの医療用ケア帽子を販売していましたが、多くの希望の声があり、男性用も開発中です。男性だって、髪の毛は失いたくないという切実な思いがあるんですよね。でも、なかなか難しくて…。

BARENの帽子は、髪の毛のない状態でかぶっても自然に見えます。それは、前髪やサイドの髪の毛を部分ウィッグで付けているからなんです。でも、部分ウィッグで男性の短髪を表現するのが難しくて…。前髪の見せ方も、女性とは違うんだなと気づきました。どうしたら自然な形になるのか、試行錯誤しているところです

「この先、髪が抜けても大丈夫」不安を笑顔に変える試着会

参加者が和気あいあいと楽しむ交流会の様子
参加者が和気あいあいと楽しむ交流会の様子

原さんの活動は、ケア帽子の販売にとどまりません。

「BAREN」を通じて、ヘアロスの当事者同士がゆっくりと話をして交流を深める場を作っていきたいそうです。

「BARENの商品を試着しながら、おしゃれの話をしたり、わからないことを聞いたりして、仲良くなっていってほしい」というのが原さんの願いです。


「BARENのかぶり方やファッションについて、みんなでおしゃべりしてくれたらいいなと思います。私も、がん患者の交流会に行ったことがあるんですが、一人ひとり経験を話す時間が設けられていたりしていて、身構えてしまったんです。もちろん、そういう場を求めている人もいると思うのですが、私はもっとカジュアルに、みんなでワイワイと楽しめる場にできたらいいなと思っています。

これまでも試着会を開催したことがあるのですが、スタッフもお客様も全員がんにかかった人ばかり。どんなことも、ごく普通のこととして悩みや、わからないことを打ち明けられます。最初は、思いつめた様子だったお客様も、だんだん打ち解けて、帰るころには『この先、髪の毛が抜けても大丈夫』と、みんな笑顔になっています


同じ悩みや不安を抱える人が集まり、仲良くなってくれる試着会には、もうひとつのメリットが。

試着をしてもらうことで、いろんな意見を聞くことができるのです。

「BAREN」の商品をよりバージョンアップしていくために、とても貴重な機会でもあります。


「私は、自分が作った商品に対して、自信がないというか…。いつも、本当にこれでいいのか、もっと改良する余地があるのでは?と不安になりがちなんです。だからお客様の声をうかがえる機会は本当にありがたくて、ご要望をもとに、何度も微調整しています。

たとえば、発売当初は、かぶっているうちにズレてくるという声をいただくことがあり、型紙を変更しました。サイズ展開してほしいというご要望もあったので、S・M・Lの3展開にするなど、細かく対応しています。最初は、スカーフハットのみの展開でしたが、お客さまの希望が多く、ニット帽も展開しています」


医療現場では「命が助かれば、見た目は二の次」という考え方が一般的かもしれません。

その一方で、「BAREN」購入者の好意的なレビューからもわかるとおり、「病気になってもおしゃれは手放したくない」と願う人も多いです。

「BAREN」は「病気になってもおしゃれは手放したくない」という原さんの思いがこめられた医療用ケア帽子であると同時に、患者の心の支えになっています。

「BAREN」を通じて広がる笑顔の輪は、これから先も大きくなるに違いありません。


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ステージ3のがん宣告で「髪が抜けたからこそできる、おしゃれを楽しもう」で一念発起!ヘアロスが"バレん"医療ケア帽子に込めた思い


【プロフィール】原まゆみ さん
大学卒業後リクルートを経てサイバーエージェントにウェブデザイナーとして入社し、新規サービスの立ち上げなどを数多く手がける。結婚後、自宅のリノベーションをきっかけに、二級建築士とインテリアコーディネーターの資格を取得。オーダー家具ブランドのD2Cベンチャー企業にて、インテリアデザイナーとしてスタートアップから携わる。2021年7月子宮頸がんを患い、治療中に感じた「もっと快適でオシャレなウィッグや帽子が欲しい」というホンネと、同じような悩みを抱える女性が大勢いることを知り、医療用ケア帽子のブランドBARENを立ち上げる。開発期間1年を経て、2023年3月販売スタート。

■「BAREN」ホームページ


取材・文:さいだ多恵
写真:原まゆみ

※記事の内容は記載当時の情報であり、現在と異なる場合があります。