双極症とともにどう働く?「睡眠6時間を切ったら要注意」当事者が作った自分の“取扱説明書”

病気と付き合いながら、現在にいたるまで約15年間休職なしで働いている松浦さんに、どのように病気と付き合っているのかを伺いました。
目次
休職と転職を繰り返した日々から15年間休職なしへ
――双極症は、極端に気分の浮き沈みが激しくなる病気とのこと。松浦さんは2010年8月、27歳で双極症Ⅱ型と診断されたそうですね。
松浦さん:はい、大卒で働き始めてから診断されるまでの5年間で、3回退職、4回休職しています。安定した会社員生活を送れず、自分のことを社会不適合者だと思っていました。
ところが2010年、当時働いていた人事部の人に指摘されたのをきっかけに、病院で双極症と診断されたのです。その後、自分について理解を深め、現在は株式会社リヴァで15年間正社員として働いています。一度も休職していません。
――どのように自己理解を深めたのでしょうか?
松浦さん:以前勤めていた会社の直属の上司と、双極症を指摘してくれた人事部の人が会社を立ち上げたんです。その2人は、現在私が働いている株式会社リヴァの代表取締役・伊藤崇と、取締役の青木弘達です。
2人が立ち上げた会社では、うつなどの精神疾患の人に向けた就労移行支援・復職支援サービスを提供しようとしていました。現在は「リヴァトレ」という名前となったサービスの前身となるものです。
そこで2人の勧めもあり、私が利用者第一号として通い始めることにしました。

――実際に受けてみて、どんなことに気づきましたか?
松浦さん:そこでは、単に職場復帰を目指すだけでなく、復職後に「働き続けるためのスキル(セルフコントロール)」を身につけるトレーニングを行いました。これらが自分の状態を客観的に見る大きなきっかけになったのです
たとえば、これまでの人生を振り返って、軽躁状態になる契機を考えてみるワークがありました。すると私は、仕事を1人で抱え込みすぎると、調子を崩すことがわかったのです。
また、グループワークも気づきが大きかったです。一緒に講座を受けている人のなかに、とてもおだやかな人がいました。あるプレゼンの時間に、その人はいつもよりずっと高いテンションで長い時間をかけて話していたのです。
その姿を目にして「自分も軽躁状態になると、こんなふうになる時があるな」と俯瞰してみることができました。
――他の人の様子を見て、自分についても客観的にとらえられたのですね。
松浦さん:それまで私は軽躁状態になった時「とても調子がよくて自分の能力を最大限発揮できる」と思っていたのです。だから、病気の症状と指摘されても納得がいきませんでした。
でも、復職支援を受けたことで、軽躁状態は病気の症状だと理解し、自分の状態をコントロールする大切さに気づけました。
自分自身の「取扱説明書」をつくり、自己理解を深めていったんです。
「調子がいい」時こそ要注意。睡眠時間と歩数で自分の状態をチェック
――転職を繰り返していた松浦さんが、1つの会社で15年間、正社員として働けるというのは大きな変化ですね。
松浦さん:本当にそのとおりです。きちんと薬を飲むことや、休養を取るのは当然ですが、普段からスマートウォッチなどを使い、自分の状態を徹底的にチェックする習慣も大切にしています。
私の場合、普段の睡眠時間は6~7時間です。ところが軽躁状態に入りかけると6時間を切ります。歩数も平均8,000〜10,000歩のところが、軽躁になると15,000歩程度に増えてくるのです。
双極症の場合、躁状態・軽躁状態になる前の段階でペースを落とすことが、その後のうつ状態の落ち込みを減らすことにつながります。
現在は双極症の当事者として、同じ双極症の人たちの就労支援に特化したWebメディア「双極はたらくラボ」やYouTubeチャンネル「双極はたらく+くらしラボ」の配信、双極症の方向けに特化した就労支援施設「双極はたらくチャレンジ東京」の開設に携わるなど、株式会社リヴァで働いています。
――なぜ双極症に特化しているのでしょうか?
松浦さん:躁状態・軽躁状態の悩みを周囲に理解してもらうのが難しいためです。双極症の浮き沈みの激しさは、継続して働き続けることを困難にしています。でも躁状態・軽躁状態だけを見ると、周囲からは「元気そうでいいね」などと言われがちで…。
だからこそ、同じ症状に悩む人たちだけで話し合える場を作りたいと思いました。こうした活動をするなかで、私自身が双極症当事者として顔出し、実名を公表することにしたのです。
当事者として発信を始めた理由
――双極症を含めた精神疾患は、まだ偏見も多い部分もあると思います。なぜ顔と実名を公表しようと思ったのでしょうか。
松浦さん:「もしかしたら、口に出して言わないだけで、身近な人やご自身がメンタルの病気で悩んでいる人は多いのではないか」と感じたんです。だから、私自身の経験を伝えるのは、誰かのためになる気がしました。
そこで最初はFacebookの非公開グループの中で公表をしてみました。すると「実は自分も同じです」とか「とても悩んでいる」といった声が少なくありませんでした。
これだけ悩んでいる人が多いのであれば、私が当事者として発信していくのは意義のあることだと思い、現在に至ります。
――双極症当事者として、健康を守りながら働き続けるポイントはありますか?
松浦さん:これまで私は1,000人くらいの双極症の方からお話を伺ってきましたが、症状の出方は本当に人それぞれ。だから「これが正解です」というアドバイスをするのは難しいと思います。
ただ、以前に精神科の医師と話をしていて「医師は患者さんの話でしか状況を知ることができない。患者さん自身が自分と向き合い、どんな時につらいのかを自覚することが大切」と言われたのが印象に残っています。
自分にとっての正解を知っているのは、その方自身です。だからこそ、自己理解と自己コントロールが大切だと感じます。
――企業で働いている場合、当事者の方が周囲に病気のことを伝えられないという悩みもあるかもしれません。
松浦さん:企業側にも「どう接していいかわからない」という不安があると思います。特に双極症の場合、調子が良い時は非常に仕事ができるため、限界を迎えて突然動けなくなると「なぜ?」と驚かれてしまうことも多いのです。
働き方はいくつか方法があります。
一般雇用のまま周囲に伝える「オープン就労」という形もありますし、障害者雇用枠を使って、会社側から正式に配慮してもらいながら働くという選択肢もあります。
ただ、障害者雇用枠の場合、業務の調整はしてもらいやすい一方で、一般雇用に比べると給与水準がやや低めだったり、職種が限られたりすることもあります。
そのため、病気であることを伝えずに働く「クローズ就労」をしている人も少なくありません。
一般社員と同等の給与やキャリアアップの機会が得られる一方で、原則として業務上の合理的配慮が受けられません。体調を崩すかもしれないという不安も大きくなりがちです。
全員に伝えなくても、信頼できる人だけに伝える「セミオープン」という形で、ちょっとした悩みを伝えられると、かなり気が楽になるのではないかと思います。
最近はアーティストのこっちのけんとさんが双極症であることを公表されました。ご自身の体調と相談しながら活動されていますが、あの姿が今後モデルケースになっていったらいいなと思っています。
――社会や企業の病気への理解が進み、当事者の方自身も自分の気持ちの波をある程度コントロールできていることが理想かもしれませんね。
松浦さん:そうですね。社会や企業と、当事者の方の双方が歩み寄りをして、どうしたら無理なく仕事ができるか、理解が進んでほしいです。
そのためにはやはり、当事者自身も自己理解を深めていくことが大切だと思います。
私自身も当事者として、悩みや苦しみを1人で抱え込んでしまうつらさがとてもわかります。だからこそ、リヴァトレや双極はたらくラボなどが、同じ悩みを抱える人たちが悩みを打ち明けられる場になるようにしていきたいと感じています。
当事者の方には、1人ではない、仲間がいるということを伝えていきたいです。そして、企業や社会に向けても積極的に発信し、病気に対する理解を深めていけたらと思っています。
<そのほかのインタビュー記事を読む>
「5年間で4回退職」双極症で転職を重ねた僕が15年休職なしで働けるまで
【プロフィール】松浦秀俊(まつうら ひでとし) さん
精神保健福祉士、公認心理師。1982年生まれ。島根県出身。前職の株式会社LITALICOでWebマーケティングと広報を担当。双極症(双極性障害・躁うつ病)Ⅱ型の症状で退職後、前職の上司が立ち上げたリヴァの社会復帰支援サービスを利用し、支援職について現在にいたる。2021年に双極症で働くヒントがみつかるWebメディア「双極はたらくラボ」を立ち上げ、2023年、双極事業部の部長に就任。2024年、「躁うつの波と付き合いながら働く方法(秀和システム)」を出版。2025年、双極症の方向けに特化した就労支援施設「双極はたらくチャレンジ東京」を日本橋に開設。
■松浦秀俊さんX
■双極はたらくラボ
■双極はたらく+くらしラボ(YouTube)
【医療監修】

神谷町カリスメンタルクリニック
松澤 美愛院長
慶應義塾大学病院初期臨床研修後、同大学病院 精神・神経科に入局。精神科専門病院での外来・入院診療に加え、救急・総合病院でのリエゾン診療、障害者支援施設や企業でのメンタルヘルス対応など、幅広い医療現場を経験。個人と社会の変化に応じた「こころのケア」を実践。2024年東京都港区虎ノ門に「神谷町カリスメンタルクリニック」を開院。精神疾患を抱える方が“自分らしさ”を取り戻すきっかけとなるよう、患者一人ひとりの背景に寄り添った診療を心掛けている。
取材・文:さいだ多恵
写真:松浦秀俊
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