十分寝ているはずなのに日中、眠くなってしまうのは病気?注意が必要なサインとは

睡眠不足や睡眠障害が続くと、脳が数秒間だけ無意識に眠り落ちる「マイクロ・スリープ(瞬間睡眠)」という危険な現象が生じることがあります。本人は眠った自覚すらないことが多く、たとえば時速60kmで運転中の場合、たった2秒間この状態に陥るだけで車は30メートル以上も制御不能なまま進んでしまうことも…。運転中や仕事中に眠り込むほどの眠気は、安全に直結するサインです。
日中に生じる強い眠気の原因などについて、林外科・内科クリニックの林裕章理事長に解説してもらいました。
医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
目次
一般的に、十分な睡眠が取れているかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか? 睡眠時間の目安もあわせて教えてください。
「何時間寝たか」だけでなく、翌日の状態で判断します。

十分な睡眠を取っているにも関わらず、日中(仕事中)に強い眠気を感じる場合、どのような原因が考えられるでしょうか?
まず確認したいのは「本当に必要量を眠れているか」です。

自分では十分に寝ているつもりでも、必要な睡眠時間は人によって異なります。
また、平日と休日で就寝・起床時刻が大きくずれる、夜勤や交代勤務がある、夜型の体質なのに早朝から活動しているといった場合は、睡眠時間が確保されていても体内時計と生活時間が合わず、日中に強い眠気が出ることがあります。
代表的な原因は睡眠時無呼吸症候群です。
睡眠時無呼吸症候群では、眠っている間に空気の通り道が繰り返し狭くなり、呼吸が止まったり浅くなったりします。
そのたびに脳が短く目覚めるため、本人は長時間寝たつもりでも深い睡眠が細切れになります。大きないびき、家族から指摘される呼吸停止、息苦しくて目が覚める、起床時の頭痛や口の渇き、夜間頻尿、熟睡感の乏しさなどが手がかりです。(※3)
肥満が最大の危険因子ですが、「太っていないから大丈夫」とは限りません。
日本人にはあごが小さい、あごが後ろに引っ込んでいる、首が短いといった骨格の特徴を持つ人が多く、太っていなくても気道がふさがりやすいのです。扁桃が大きい、鼻が詰まりやすいことも危険因子になります。(※3)
また、女性は男性より少ないものの、閉経後に急に増えることはあまり知られていません。
女性ホルモンの減少が関係すると考えられており、更年期以降にいびきが強くなった、朝すっきりしないという場合は要注意です。
意外なサインが「夜間頻尿(夜中に何度もトイレに起きること)」です。
呼吸が止まるたびに胸の中が強い陰圧になり、心臓に血液が戻りすぎます。すると心臓から尿を増やすホルモンが出て、本来なら尿量が減るはずの夜間に尿がどんどん作られてしまいます。
年齢や前立腺のせいだと思っていた夜中のトイレが、無呼吸の治療で大きく減ることは珍しくありません。(※3、※4)
放置したときの影響も見過ごせません。睡眠時無呼吸があると、高血圧・脳卒中・心筋梗塞などを起こす危険性が約3~4倍に、重症例では心臓や血管の病気を起こす危険性が約5倍になると報告されています。
日中の眠気は居眠り運転事故や労働災害の原因にもなります。逆にいえば、治療を受けた人の死亡率は健康な人と同じ水準まで下がることも分かっています。(※3)
もう一つ、あまり知られていない落とし穴があります。治療を受けていない睡眠時無呼吸の人が、寝つきをよくしようとお酒を飲んだり、一部の睡眠薬を使ったりすると、のどの筋肉がさらにゆるんで無呼吸を悪化させてしまいます。
呼吸が止まる回数が増え、血液中の酸素の下がり方もひどくなります。「いびきがひどい」「呼吸が止まっていると言われた」という人は、自己判断で寝酒や睡眠薬に頼らないでください。
なお、睡眠時無呼吸のある人は自分の睡眠時間を実際より長く見積もる傾向があり、眠気にも慣れてしまうため、「自分は眠くない」と感じていることも少なくありません。十分眠っているはずなのに休養感がない場合は、自覚の有無にかかわらず相談してください。
●睡眠を浅くする病気や、脳の覚醒機能に関わる病気の可能性も
睡眠時無呼吸症候群のほかにも、以下のような原因が考えられます。
・むずむず脚症候群:夜、安静にすると脚がむずむずして動かしたくなり、動かすと楽になる病気です。寝つきが悪くなり、本人が気づかないまま睡眠の質が落ちることがあります。
・周期性四肢運動障害:睡眠中に脚が繰り返しぴくつき、眠りが細切れになる病気です。本人より同室の人が先に気づくこともあります。
・ナルコレプシー/特発性過眠症:夜に十分寝ても、会議中や会話中など通常は眠らない場面で耐え難い眠気が起こります。笑ったり驚いたりしたときに力が抜ける、寝入りばなの金縛りや鮮明な幻覚を伴う場合は、ナルコレプシーの手がかりになります。(※5)
・体内時計のずれ:極端な夜型、交代勤務、時差のある生活などでは、社会的に起きている必要がある時間と、体が眠ろうとする時間がずれます。(※5)
・薬、アルコール、心身の病気:アレルギー薬や鎮静作用のある薬などの副作用、飲酒、うつ病などでも眠気は起こります。
一方、「眠ってしまいそう」という眠気ではなく、「体がだるい」「頭が重い」という倦怠感が中心なら、貧血、甲状腺機能異常、糖尿病、感染症など、睡眠以外の病気も考える必要があります。
受診の際は「実際に居眠りしてしまうのか」「横になりたいだけなのか」を伝えると、診断の助けになります。(※2、※6)
日中の強い眠気を改善するために、見直したい生活習慣があれば教えてください。
最初に「起床時刻」を整えましょう。

生活リズムを整える際は、就寝時刻よりも、まず毎日の起床時刻を大きくずらさないことが重要です。
休日も昼近くまで寝るのではなく、平日との差を1時間以内にとどめることが理想です。起きたらカーテンを開けて朝の光を浴び、朝食を取ると、体内時計が朝に合いやすくなります。
朝食を抜くと体内時計が後ろにずれ、寝つきが悪くなることも分かっています。夜は照明を少し暗くし、寝床でスマートフォンを長時間見ないようにします。
●睡眠時間を先に確保し、カフェインで無理に押し切るのはNG
眠気があるとコーヒーやエナジードリンクを増やしがちですが、夕方以降のカフェインは夜の睡眠を浅くし、翌日にさらに眠くなる悪循環を招きます。
厚生労働省の資料では、成人のカフェイン摂取量は1日400mgを超えないようにし、夕方以降は控えることが勧められています。400mgはドリップコーヒーで4杯(約700mL)が目安です。
ただし、カフェインへの感受性には個人差が大きい(体内で半分に減るまでの時間は日本人でも3~7時間と幅があります)ため、眠りが浅い人は昼過ぎから控える必要があることもあります。
意外なのがエナジードリンクで、製品によってはコーヒーの5倍近いカフェインを含むものがあります。眠気覚ましのつもりが夜の眠りを壊し、翌日さらに眠くなるという悪循環の入り口になりがちです。
●寝酒は眠りを深くするどころか、後半の睡眠を壊すリスクが
アルコールを飲むと寝つきは早くなりますが、体内で分解される過程でアセトアルデヒドという物質が生じ、体を興奮させる方向に働くため、睡眠後半の眠りが浅くなり、途中で目が覚めやすくなります。
さらに、アルコールによって喉の筋肉がゆるむため、いびきや睡眠時無呼吸も悪化させます。「眠るための晩酌」は避けてください。
喫煙やニコチンにも覚醒作用があり、ニコチンは体から抜けるのに時間がかかるため、夕方の一服でも寝る頃まで作用が残ることがあります。
●日中は体を動かし、入浴は就寝1~2時間前に
散歩や軽い筋力トレーニングなど、無理のない運動を習慣にすると、寝つきや睡眠休養感の改善が期待できます。ただし、就寝直前の激しい運動は脳と体を興奮させるため避けます。
「夜に運動するとかえって眠れない」と思われがちですが、就寝2~4時間前までに終えるなら、夕方や夜の運動でも睡眠は改善します。
入浴は就寝1~2時間前を目安にすると、体の深部温度が下がるタイミングで眠りやすくなります。(※7)
もう一つ、知っておくと役に立つのが塩分です。
日中に摂りすぎた塩分は夜のあいだに尿として出ていくため、塩辛い食事は夜中のトイレの回数を増やします。減塩を心がけると、夜中に目が覚める回数が減ることが期待できます。
●どうしても眠いときの昼寝は短くするのが◯
昼寝をするなら、午後の早い時間に20分前後(長くても30分以内)を目安にします。
短時間の昼寝は脳の疲労を回復させる効果的な方法ですが、長い昼寝や夕方のうたた寝は、夜の眠気を弱めてしまいます。
コツは、昼寝の直前にコーヒーなどでカフェインを摂っておくこと。
カフェインが効き始める頃に自然と目が覚め、寝起きのぼんやり感が残りにくくなります。
ただし、会議中や運転中にも眠り込むほどの眠気を、昼寝だけでごまかしてはいけません。病気が隠れていないかを調べる必要があります。
●安全上、最も大切なこと
運転中や機械操作中に眠気を感じたら、「窓を開ける」「音楽を大きくする」といった方法で無理に運転を続けないでください。
これらは数分程度の気休めにしか効果がありません。安全な場所に停止し、運転や危険作業を中止することが最優先です。
やむを得ず運転を続ける場合は、停車したうえでコーヒーなどを飲み、そのまま20分ほど仮眠をとるのが最も確実です。まぶたが重い、瞬きが増えたと感じた時点で、すでに危険な状態にあります。
強い眠気が繰り返す間は、原因が分かるまで運転を控える必要があります。
どのような場合に医療機関を受診すべきでしょうか?また、何科を受診すればよいでしょうか?
仕事や安全に影響する眠気は、早めに受診してください。

日中の眠気が毎日のように続く、十分な睡眠時間を1~2週間確保しても改善しない、仕事や学業で居眠りをする、重要な会議や一対一の会話中にも眠ってしまう場合は、医療機関への相談を勧めます。
特に、居眠り運転、交通事故や労働災害につながりかけた経験がある場合は、様子を見ずに早めに受診してください。(※2)
なお、次のサインがある場合は、睡眠時無呼吸を疑います。
・毎晩のように大きないびきをかく、呼吸が止まる、あえぐような呼吸を家族に指摘された
・朝の頭痛、口の渇き、熟睡感の乏しさ、夜間頻尿がある
・高血圧が治療しても下がりにくい、不整脈、糖尿病、心臓・脳血管の病気がある
・肥満がある、首が太い、扁桃が大きい、鼻詰まりが強い、あごが小さく奥まっている(閉経後の女性や細身の方でも要注意です)
睡眠時無呼吸が疑われる場合、まず自宅で行う簡易検査や、必要に応じて一晩かけて脳波・呼吸・酸素濃度などを測定する睡眠ポリグラフ検査が行われます。
診断がついた場合は、鼻に着けた装置から空気を送って気道を広げるCPAP(シーパップ)治療や、下あごを前に出すマウスピースなどの治療法があります。(※3、※8)
受診する科は、症状に応じて選びます。最も適しているのは、睡眠外来・睡眠センター・睡眠医療を専門にする医療機関です。症状別の内容を参考にしてください。
・いびき、無呼吸、肥満、朝の頭痛、夜間頻尿が目立つ場合→呼吸器内科
・鼻詰まりや扁桃、あごの形が関係しそうな場合→耳鼻咽喉科
・夜に十分眠っても抗えない眠気があり、金縛り、入眠時の幻覚、感情で力が抜ける症状がある場合→睡眠外来、精神科・心療内科、脳神経内科など、過眠症を診療できる医療機関
・脚のむずむず感や睡眠中の脚の動きがある場合→睡眠外来、脳神経内科(※5)
なお、何科か判断できない場合はかかりつけ医、一般内科、総合診療科から相談して構いません。薬の副作用や貧血、甲状腺機能なども含めて確認し、必要な専門科につないでもらえます。
●受診前に準備すると役立つ情報
1~2週間の睡眠記録、服用中の薬やサプリメント、カフェイン・飲酒量、仕事の勤務形態、家族が撮影したいびきや呼吸停止の短い動画があると、診察の助けになります。
いびきや呼吸音を録音できるスマートフォンアプリも、それだけで確定診断はできませんが、「呼吸が止まっているかもしれない」と気付くきっかけとして役立ちます。
強い眠気は、治療できる病気のサインであることがあります。
「忙しいから」「年齢のせい」と放置せず、まず睡眠時間と生活リズムを整え、それでも続く場合は医療機関へ相談してください。
睡眠時無呼吸症候群は、「単なるいびきや眠気」の病気ではありません。放置すれば高血圧、心筋梗塞、脳卒中など命に関わる重大な病気にも関係するため、早めに見つけて治療することが非常に大切です。
適切な治療を行えば、昼間の眠気や夜間頻尿が見違えるように改善し、毎日の生活の質を大きく高めることができます。(※3)
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※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。


十分な睡眠が取れているかを判断するうえで、最も実用的なのは「朝にある程度すっきり起きられるか」「午前中から強い眠気がないか」「仕事や家事に集中できるか」「休日に極端な寝だめをしなくても過ごせるか」を確認することです。
厚生労働省は、睡眠の良し悪しを考える際に、睡眠時間に加えて、朝に休養が取れたと感じる「睡眠休養感」や、日中の強い眠気の有無を重視しています。(※1)
●働く世代は「少なくとも6時間以上」が一つの目安
成人では、おおむね6~8時間が適正な睡眠時間と考えられています。厚生労働省の資料でも、少なくとも6時間以上の睡眠を確保するよう勧められています。
ただし、6時間寝れば誰でも十分という意味ではありません。必要な睡眠時間には個人差があり、毎日6~7時間眠っていても、その人にとって不足していれば日中の眠気が生じます。
反対に、実際に眠れる時間は加齢とともに短くなります。脳波で厳密に測ると、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳では約6時間と、成人後は20年ごとに30分ほど減っていきます。
それなのに「8時間眠らなければ」と早くから寝床に入ると、かえって寝つきが悪くなり、途中で目が覚めやすくなります。高齢の方は、寝床にいる時間が8時間以上にならないようにすることが目安とされています。
●休日の寝だめが、平日の眠気につながる可能性も
慢性的な睡眠不足では、本人が眠気に慣れてしまい、「自分は平気」と感じやすくなることがあります。
しかし、集中力や判断力は知らず知らずのうちに低下しています。運転や危険を伴う作業をする人ほど注意が必要です。休日に長く寝ないと持たない人は、平日の睡眠不足を疑うサインです。
平日の睡眠不足を休日の長寝で補おうとすると、体内時計が狂い、月曜日の朝に海外旅行の時差ボケのようなだるさと眠気を引き起こす「社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)」に陥りやすくなります。
寝だめで一時的に楽になっても、睡眠不足による脳や体へのダメージを完全に帳消しにはできません。(※1、※2)