健康診断で「膵臓がん」は見つかる?“異常なし”でも安心できない理由と早期発見のポイント【医師解説】

では、健康診断から膵臓がんが見つかることはあるのでしょうか。健診で分かること・分からないことや、膵臓がんが疑われた場合に行われる検査、健診で異常がなくても注意したい症状について、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックの安江千尋院長に解説してもらいました。
医師紹介
2009年防衛医科大学校医学科卒業。防衛医科大学校病院、自衛隊横須賀病院、自衛隊舞鶴病院などで内科・消化器内科診療に従事した後、がん研有明病院 下部消化管内科にて内視鏡診療・治療を専門に従事。2020年に同病院副医長に就任。2024年12月、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックを開院。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。
目次
一般的な健康診断で、膵臓がんを発見することはできるのでしょうか?
一般的な健康診断をきっかけに膵臓がんが見つかることはあります。しかし、通常の健診だけで膵臓がんを早期に確実に発見することは難しく、「健診で異常がなかった=膵臓がんはない」とは言えません。

膵臓がんが疑われる場合、どのような検査が行われるのでしょうか?また、人間ドックなどで追加できる検査の中に、早期発見に役立つものはありますか?
膵臓がんが疑われた場合には、一つの検査ですべてを判断するのではなく、「疑うきっかけを確認する検査」→「膵臓を詳しく見る画像検査」→「必要に応じて組織・細胞を調べる検査」という流れで診断を進めます。

まず血液検査では、肝胆道系酵素やビリルビン、膵酵素、血糖値・HbA1cなどを確認し、必要に応じてCA19-9やCEAなどの腫瘍マーカーも測定します。
ただし、これらだけで膵臓がんの有無を確定することはできません。
画像検査では、腹部超音波、造影CT、MRI/MRCP、超音波内視鏡(EUS)などを症例に応じて使い分けます。2025年版の膵癌診療ガイドラインでも、リスク評価、画像診断、病理診断、病期診断を組み合わせた診断戦略が重視されています。
造影CTでは、膵臓の腫瘍の有無や大きさだけでなく、血管への広がり、リンパ節や肝臓などへの転移も評価します。
MRI/MRCPは、膵臓そのものに加えて、膵液が流れる膵管の狭窄や拡張を詳しく観察できることが特徴です。
EUSは、胃や十二指腸の中から超音波で膵臓を至近距離から観察する検査で、小さな病変や微細な膵実質・膵管の変化を詳しく調べる際に有用です。必要に応じて、EUSで病変を確認しながら組織を採取するEUS-FNA/FNBを行うこともあります。
ここで早期発見のために重要なのは、「腫瘍が見えるか」だけで判断しないことです。
ごく早期の膵臓がんでは、腫瘤そのものが明瞭でなくても、主膵管の狭窄やその上流側の拡張、膵嚢胞、膵臓の一部分だけが痩せる限局性膵萎縮などが手掛かりになる場合があります。
では、人間ドックでは何を追加すればよいのでしょうか。
結論から言えば、「この検査を一つ追加すれば膵臓がんを早期発見できる」という万能な検査はありません。
とくに、CA19-9だけを追加して「正常だったから安心」と考えることはおすすめできません。
また、症状がなく平均的なリスクの人全員に、CT、MRI、EUSなどによる膵癌スクリーニングを行うことは現在推奨されていません。偽陽性による追加検査や治療の不利益もあるためです。
一方で、膵臓がんの濃厚な家族歴や特定の遺伝的背景などを持つ高リスク者では話が異なります。
そのような人では、MRIやEUSなどを用いた定期的なサーベイランスが検討されます。ASGE(米国消化器内視鏡学会)も、遺伝的高リスク者ではEUS、MRI、または両者を組み合わせた定期的なスクリーニングを提案しています。
したがって、人間ドックで大切なのは、検査をたくさん追加することではなく、自分の家族歴、糖尿病、慢性膵炎、IPMNなどの膵疾患、過去の画像所見を踏まえて、必要な検査を選ぶことです。
健康診断で異常がなくても、膵臓がんを疑って医療機関を受診したほうがよい症状や変化はありますか?
あります。膵臓がんでは、「健診で異常なしだったから、次の健診まで大丈夫」と考えすぎないことが重要です。

とくに注意したいのは、
・原因の分からない体重減少
・食欲低下
・持続するみぞおち・上腹部の痛み
・続く背中の痛み
・黄疸
・尿が濃くなる
・白っぽい便が続く
・新しく糖尿病を発症した
・それまで安定していた血糖値が理由なく急に悪化した
といった変化です。
なかでも黄疸は早めの受診が必要な重要なサインです。
膵頭部にできた腫瘍によって胆管の流れが妨げられると、皮膚や白目が黄色くなり、濃い尿、白っぽい便、皮膚のかゆみなどを伴うことがあります。
また、見落としたくないのが、「糖尿病の変化+体重減少」です。
糖尿病は膵臓がんのリスクと関連する一方で、膵臓がんが原因となって新たに糖尿病が発症したり、それまで安定していた血糖値が急に悪化したりすることもあります。
ただし、新しく糖尿病になった人の大部分が膵臓がんという意味ではありません。
重要なのは、一つの症状ではなく、複数の変化が重なっていないかを見ることです。
例えば「背中が痛い」だけなら、筋肉や背骨など別の原因の方がはるかに一般的です。
しかし、「最近、理由なく体重が減っている」+「食欲も落ちている」+「みぞおちや背中の症状が続いている」というように、これまでになかった複数の変化が同時に続く場合には、意味が変わってきます。
もう一つ重要なのが、過去の検査結果を忘れないことです。
以前の腹部エコーやCT、MRIなどで、IPMN、膵嚢胞、主膵管拡張などを指摘された人は、今回の血液検査が正常だからといって、自己判断で経過観察を中断しないことが大切です。
膵臓がんの早期発見では、
1.健診でわずかな異常を拾う
2.過去に指摘された膵臓の異常を継続して追う
3.健診と健診の間に起きた「いつもと違う変化」を見逃さない
という3つが重要です。
健康診断の「異常なし」は、膵臓がんが存在しないことを保証するものではありません。
とくに、これまでなかった体重減少、黄疸、持続する上腹部・背部症状、糖尿病の急な発症・悪化などがみられた場合は、次回の健康診断まで待たずに、消化器内科などへ相談することをおすすめします。
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※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。


一般的な健診で測定されるAST、ALT、γ-GTP、血糖値などは、膵臓がんそのものを調べる検査ではありません。早期の膵臓がんでは、これらがすべて正常なこともあります。
一方で、健診結果が「膵臓を詳しく調べるきっかけ」になることはあります。例えば膵頭部の腫瘍によって胆管の流れが悪くなると、ビリルビンやALP、γ-GTPなどが上昇することがあります。
また、膵臓がんをきっかけに糖代謝が変化し、血糖値やHbA1cの上昇、新規の糖尿病として見つかることもあります。
人間ドックなどで追加されることがあるCA19-9などの腫瘍マーカーにも限界があります。
CA19-9は膵臓がんの診断補助や治療後の経過観察には有用ですが、早期膵がんでは正常のことがあり、腫瘍マーカーだけで早期発見することはできません。
日本膵臓学会も、CA19-9などは早期膵癌の検出には十分ではないとしています。
腹部超音波検査は、膵臓を調べるうえで有用な検査です。ただし、膵臓は胃の後ろ側にあり、胃や腸のガス、体格などによって膵臓全体を十分に観察できない場合があります。
さらに重要なのは、非常に小さな膵臓がんでは「がんの塊」そのものが見えないことがあるという点です。
その場合でも、主膵管の拡張や膵嚢胞などの間接的な異常が先に見つかり、それをきっかけにCTやMRI、超音波内視鏡などの精密検査へ進むことがあります。日本膵臓学会も、主膵管拡張や膵嚢胞を膵癌の重要な間接所見として挙げています。
つまり健康診断は、「膵臓がんがないことを証明する検査」ではなく、血糖値の変化や画像上のわずかな異常など、精密検査につなげるサインを拾う機会と考えるのが適切です。