熱中症の人に「水を飲ませる」と危険なケースも…医師が解説する正しい応急処置とNG行動

熱中症が疑われた場合にまず行うべき対応や、やってはいけないNG行動、救急車を呼ぶべき症状について、林外科・内科クリニックの林裕章理事長に解説してもらいました。
医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
目次
熱中症が疑われる場合、まず行うべき応急処置を教えてください。
熱中症が疑われる人が目の前にいる場合、まず周囲の安全を確認し、呼びかけへの反応と「普段どおりの呼吸」があるかを確かめます。

熱中症のときに、やってはいけないNG行動にはどのようなものがありますか?
熱中症の応急処置において、良かれと思ってやってしまいがちな重大なNG行動がいくつかあります。

まず避けたいのは、救急車を呼んだことで安心し、冷却を止めて待つことです。重症熱中症では、病院に着く前から早く冷やし始めることが重要です。119番通報と冷却は、どちらか一方ではなく同時に進めてください(※4)。
●衰弱している人に無理やり水分補給は危険なケースも!
意識障害がある人や、自分でペットボトルを持てないほど衰弱している人に、無理やり水を飲ませてはいけません。意識がはっきりしない人の口に液体を流し込むと、気管に入って窒息や誤嚥性肺炎を起こす危険があります。寝かせたまま飲ませたり、ペットボトルを傾けて流し込んだりしてはいけません(※3)。
飲み物では、アルコールを水分補給として与えてはいけません。アルコールは判断力を低下させ、利尿も促すため不適切です。一方、コーヒーや緑茶を「飲むと、摂取した量以上の水分が必ず失われる」わけではありません(※5)が、熱中症時の補給には水、経口補水液、水分・電解質を含む飲料が適しており、カフェインの多いエナジードリンクや濃いコーヒーを積極的に選ぶ理由はありません。
●熱中症と風邪の発熱は別物、解熱剤の利用は原則NG
解熱鎮痛薬も、体が熱いからと自己判断で飲ませてはいけません。アセトアミノフェン(先発品名:カロナール)やロキソプロフェン(先発品名:ロキソニン)などは、感染症などで体温の設定値が上がる「発熱」には使われますが、熱中症で体内に熱がこもる「高体温」とは仕組みが異なります。
日本救急医学会は、熱中症に解熱薬を使用しないことを弱く推奨しており、効果は明らかでないうえ、肝臓・腎臓の障害や凝固異常を悪化させる可能性があります(※4)。
ただし、感染症など別の原因が併存することもあるため、薬を追加するより、まず冷却と医療機関への相談・受診を優先してください。
どのような症状が現れたら、救急要請や医療機関の受診を検討すべきでしょうか?
直ちに119番通報が必要な主なサインは、「呼びかけに反応しない」「返事がおかしい、会話がかみ合わない」「けいれん」「手足をうまく動かせない」「自力で水が飲めない」「全身の強い脱力で動けない」「普段どおりの呼吸ではない」などです(※1、6)。

受診や119番通報の判断では、体温の数字だけでなく以下のような状態の観察も行ってください。
- 呼びかけへの反応や会話
- 自力で水分を飲めるか
- 涼しい場所で休み冷やしても症状が改善するか
- けいれんや強い脱力がないか(※3、6)。
家庭用体温計の数字だけで重症度を正確に判断することはできないため、測定に手間取って救急要請や冷却を遅らせてはいけません(※4)。
まず、自力で水分や塩分の補給ができない場合、あるいは涼しい場所で休ませて水分を摂らせたにもかかわらず、頭痛や吐き気、倦怠感が改善しない場合は、速やかに医療機関を受診してください。
繰り返し吐く、強いだるさで動けない、症状が悪化する場合も受診が必要です。自力で移動できないほど衰弱している場合は、無理に自家用車へ乗せず119番通報を検討してください(※2、6)。
日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2024」分類では、熱中症での意識障害や臓器障害を伴う状態は重症に分類され、深部体温40℃以上かつ高度の意識障害を伴う最重症の「Ⅳ度」も設けられました(※4)。
このガイドラインでは、体温を正確に測れない現場でも、体に強い熱感があって意識がはっきりしない人はためらわず最重症として扱い、すぐ救急搬送する、という考え方が示されています(※4)。
一般の人が現場でⅢ度・Ⅳ度を判定する必要はありません。意識や会話に異常があれば、一刻を争う可能性があるとして対応してください。
ここで大切なのは、本人が「大丈夫」と答えたかどうかだけで判断しないことです。意識障害は、完全に意識を失う場合だけではなく、返答が遅い、同じことを繰り返す、場所や日時が分からない、簡単な指示に従えないといった軽い変化から始まることがあります。視線が合うか、会話が自然に成立するか、名前や今いる場所を答えられるかを確認し、異常があれば無理に歩かせず救急要請してください(※4)。
もう一つ意外な点は、脇や額で測った体温が40℃未満でも、重症熱中症を否定できないことです。医療では直腸温などの深部体温を重視しますが、一般家庭で正確に測ることは困難です。「体温がそれほど高くないから大丈夫」と判断せず、意識・会話・呼吸・自力飲水の状態を優先してください(※4)。
<参考文献>
※1:総務省消防庁「応急手当WEB講習(反応の確認、119番通報、呼吸の確認、胸骨圧迫)」
※2:環境省「熱中症環境保健マニュアル ~総論~(2025年7月版) 4.熱中症になったときの応急処置」
※3:厚生労働省「熱中症が疑われる人を見かけたら 応急処置」
※4:日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」
※5:Maughan RJ, Griffin J. “Caffeine ingestion and fluid balance: a review.” Journal of Human Nutrition and Dietetics. 2003(PubMed)
※6:総務省消防庁「令和5年版 消防白書 3 熱中症への対応」
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※本記事の作成・推敲にあたり、文章構成案および表現整理の補助として生成AIを使用しました。医学的内容については医師が確認し、必要に応じて公的機関・専門学会等の情報を参照しています。
※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。


反応がなく、普段どおりの呼吸がない、または判断に迷う場合は、熱中症の処置より心肺蘇生を優先し、119番通報とAEDの手配、胸骨圧迫を開始してください(※1)。反応はないものの普段どおりの呼吸がある場合も119番通報し、吐いた物で窒息しないよう横向きにして、呼吸を見ながら冷却を続けます(※1)。
反応と呼吸が保たれている場合の基本は、「暑さを避ける」「体を冷やす」「自力で飲める場合に水分・電解質を補う」の3つです(※2、3)。
上記のような重篤な状況でない場合はまず、エアコンの効いた室内や風通しのよい日陰へ速やかに移し、衣服を緩めます。次に、冷たいタオルや保冷剤・氷のうを当てるなど、利用できる方法ですぐに冷やしてください。保冷剤などがなくても皮膚に水をかけてうちわや扇風機で仰ぐことで、気化熱を利用して体温を下げます。
●シャワーやホースで全身を冷やすのも有効
スポーツや作業中に倒れ、全身が著しく熱い場合は、設備と人手があれば冷たい水のシャワーやホースで全身を冷やす方法が特に有効です。
実は、こうして体全体を一気に冷やすやり方は、医療現場でも体温を下げるうえで最も速い方法のひとつとされています。だからこそ、その場でできる冷却を早く始めることに大きな意味があります(※4)。救急車を呼んだ後も、到着まで冷却を続けることが重要です(※2、4)。なお、意識がはっきりしない人を一人で浴槽に入れるのは、溺水や急変時の対応遅れにつながるため避けてください。
●「太い血管が通る場所」に加えて手のひら、足の裏、頬も冷却を
効率的な冷却部位ですが、従来は首の回り、脇の下、太ももの付け根といった太い血管が通る場所を冷やすのが鉄則とされてきました。しかし近年の研究により、手のひら、足の裏、頬を冷やすことも極めて効果的であることが分かっています(※1)。
これらの部位には、体温調節のための特殊な血管(AVA血管)が豊富に存在しているためです。冷えたペットボトルなどを手で握らせるだけでも、体温を下げる補助的な効果が期待できます。
ただし手のひらなどを冷やす場合、氷水のように冷たすぎると血管が縮んでかえって逆効果になることがあります。ひんやり気持ちよいと感じる15℃くらいの水がちょうどよいとされています。
一方で、意識がなかったり全身がひどく熱かったりする重症のケースでは、こうした部分冷却にこだわらず、全身をしっかり冷やすことを優先してください。
●水分補給は経口補水液や、水分・電解質を含む飲料を少しずつ
水分補給は、本人の意識がはっきりしており、吐き気や嘔吐がなく、自分で容器を持って、むせずに飲み込める場合に限ります。経口補水液や、水分・電解質を含む飲料を少しずつ飲ませてください。
少しでも返事がおかしい、自力で飲めない、繰り返し吐くといった場合は、誤嚥や窒息の危険があるため、口から飲ませず119番通報を行います(※3)。
また、経口補水液は一度に大量に飲むものではありません。腎臓病や心臓病などで水分・塩分制限を受けている人は、医師の指示を優先してください(※3)。