「寝言が増えた」は病気のサイン?医師が教える“受診したほうがいい寝言”の特徴とは

一方で、大人になってから急に増えた寝言は、少し注意が必要かもしれません。大声で叫ぶ、殴る・蹴る、ベッドから落ちる、呼吸が止まる、日中に強い眠気がある、50歳以降に急に目立ってきた、といった場合は、睡眠の病気が隠れていることがあるそうです。
単なる疲労やストレスと見過ごされがちな危険なサインなどについて、林外科・内科クリニックの林裕章理事長に解説してもらいました。
医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
目次
寝言はなぜ起こるのでしょうか?
寝言が出るのは、眠っている間も脳が完全に「電源オフ」にはなっていないからです。

寝言が多い場合、なにか病気が隠れている可能性がありますか?
寝言だけが多い場合、必ずしも病気とは限りません。ただし、寝言に加えて体の動きが大きい場合は注意が必要です。

本人がよく眠れていて、日中の強い眠気や集中力低下がなく、家族が困るほどの大声や危険な動作もないなら、まずは生活リズムや睡眠不足の影響と考えて、しばらく様子をみてかまいません。
ただし、前述のように、寝言に加えて体の動きが大きい場合は注意が必要です。
代表的なのがレム睡眠行動障害です。通常、レム睡眠中は夢を見ていても筋肉の力が抜け、夢の通りに体は動きません。ところが、この抑制がうまく働かないと、夢の中の行動がそのまま寝言や体動として現れます。
大声で叫ぶ、誰かと争うような寝言を言う、腕を振り回す、殴る、蹴る、ベッドから落ちる、隣で寝ている人をけがさせる、といった形で気づかれます(※3)。
見分け方として役に立つのが、起こしたときの反応です。レム睡眠行動障害では、声をかけると比較的すぐに目が覚め、本人が「追いかけられていた」などと夢の内容をはっきり覚えています。
反対に、寝ぼけて歩き回る睡眠時遊行症や夜驚症では、なかなか目が覚めず、翌朝ほとんど覚えていません。この違いは、医師が原因を考えるときの大きな手がかりになります。
レム睡眠行動障害で特に大切なのは、単なる「寝相が悪い」では済まない場合があることです。国立精神・神経医療研究センターは、この病気が50歳以降の男性に多く、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などの神経疾患と関係することがあると説明しています。
つまりレム睡眠行動障害は、こうした病気が表に出てくる数年から十数年も前に、いわば先ぶれのサインとして現れることがあるのです。
また、うつ病や不安症の治療に使われる一部の抗うつ薬が、レム睡眠行動障害のきっかけになることもあります(※4)。
自己判断で薬をやめる必要はありませんが、飲み始めてから寝言や寝ている間の動きが増えたときは、処方した医師に伝えてください。
もちろん、寝言がある人すべてが将来これらの病気になるわけではありません。しかし、中高年以降に急に激しい寝言や暴れる動作が出てきた場合は、早めに評価を受ける価値があります。
また、大きないびき、睡眠中の呼吸停止、息苦しそうにしている、朝の頭痛、日中の眠気を伴う場合は、睡眠時無呼吸症候群も考えます。
意外と見落としがちなのが、家族が「変な寝言だ」と思ってよく確認すると、実は呼吸が止まった後、再び息を吸い込むときの「あえぎ声」や「うめき声」であったというケースです。
寝言そのものが睡眠時無呼吸の典型症状というわけではありませんが、睡眠が何度も浅くなるため、家族が夜間の異常に気づくきっかけになることがあります。
日本呼吸器学会は、睡眠時無呼吸症候群ではいびき、夜間頻尿、日中の眠気、起床時頭痛などを認めると説明しています(※5)。
なお、睡眠時無呼吸は太った人だけの病気ではありません。日本呼吸器学会は、あごが小さい、あごが後ろに下がっているといった骨格の特徴でも空気の通り道が狭くなり、肥満でなくても睡眠時無呼吸になると説明しています。やせている人でも起こりえます。
女性に少なくないことも見落とされがちです。成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられ、女性では閉経後に増えるとされています。「いびきや無呼吸は太った中年男性の問題」と思い込むと、発見が遅れてしまいます。
子どもにも注意点があります。いびきをかきながら、寝言や寝相の悪さが目立つ子では、扁桃やアデノイドの肥大による睡眠時無呼吸が隠れていることがあります。
厚生労働省のe-ヘルスネットは、小児の数%に閉塞性睡眠時無呼吸がみられ、重い場合には日中の集中困難や学習能力の低下がみられると注意を促しています(※6)。落ち着きのなさや成績の低下の背景に、夜の呼吸の問題が隠れていることがあるわけです。
そのほか、強い悪夢や不安、うつ状態、不眠症、高熱、一部の薬、お酒の飲みすぎなどでも、睡眠中の声や行動が目立つことがあります。
眠りの乱れの原因はストレスだけとは限らず、治療のために飲んでいる薬の副作用が関係していることも少なくありません(※7)。
意外に思われるかもしれませんが、眠るために飲んでいる睡眠薬そのものが、寝ぼけて動き回る行動の引き金になることもあります(※4)。
寝言が増えないようにするために、日常生活でできる対策があれば教えてください。
寝言を完全にゼロにする確実な生活法はありません。ただ、寝言が睡眠不足や眠りの浅さで目立つタイプであれば、睡眠を安定させる工夫で減ることがあります。

基本は、毎日の起床時刻をなるべくそろえ、朝に光を浴び、夜更かしを続けないことです。体内時計は光の影響を受けるため、起床時刻と光を浴びるタイミングがばらばらになると、眠りの質も乱れやすくなります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、成人は1日6時間以上を目安に睡眠時間を確保することがすすめられています(※8)。
ここで誤解されやすいのが入浴です。熱すぎるお湯や就寝直前の入浴は体を目覚めさせてしまいますが、40℃くらいのお湯に10~15分ほど浸かる入浴は、むしろ寝つきを良くし、深いノンレム睡眠を増やすことがわかっています。
もっとも効果的なのは就寝の1~2時間前で、湯上がりのほてりが引いてから布団に入るのがコツです(※2)。
一方、夜のスマートフォンやパソコンの光は、体内時計を遅らせて寝つく時刻を後ろにずらします。特に白色LEDに多く含まれるブルーライトは影響が大きいので、夜は画面を暗くする、照明を暖色系にするといった工夫をしましょう。
カフェインにも注意が必要です。コーヒーだけでなく、緑茶、紅茶、エナジードリンク、チョコレートにも含まれます。市販の風邪薬や鎮痛薬に含まれていることもあります。
カフェインへの感受性には個人差がありますが、敏感な人は就寝の5〜6時間前から控えた方がよいとされています。「夜にコーヒーを飲んでも眠れる」という人でも、実際には眠りが浅くなっていることがあります。寝言が増えた時期と、夕方以降のカフェイン摂取が重なっていないか確認してみるとよいでしょう。
寝酒も避けたい習慣です。アルコールは寝つきを一時的によくすることがありますが、深いノンレム睡眠を減らし、中途覚醒を増やします。
さらに、アルコールはのどの筋肉をゆるめて空気の通り道を狭くするため、いびきや睡眠時無呼吸を悪化させます。その結果、夜の眠りはいっそう不安定になります。
日本呼吸器学会も、睡眠時無呼吸症候群では晩酌を控える必要があるとしています(※5)。寝言対策としても、睡眠薬代わりの飲酒は逆効果になりやすいと考えてください。
家族ができる工夫としては、寝言の内容を責めたり、翌朝に面白半分で問い詰めたりしないことも大切です。本人に記憶がないことが多く、恥ずかしさや不安が強まると、かえって睡眠への緊張が高まることがあります。
また、激しい寝言や体の動きを見た際に、慌てて強く揺さぶって起こそうとするのは避けてください。
眠りを中断された脳は一時的な混乱(錯乱状態)を起こしやすく、起きた瞬間に強い驚きで周囲にぶつかったり転倒したりする危険があります。優しく見守るか、必要があれば静かに呼びかけるのが安全です。
腕を振り回しているときは、体に触れると巻き込まれてけがをすることがあるので、少し距離をとってから声をかけてください。
一方で、寝言に加えて暴れる、転落する、物を投げるなど危険がある場合は、ベッド周囲の硬い物を片づける、床にマットを敷く、同室者との距離をとるなど、安全確保を優先してください。レム睡眠行動障害では、寝室環境の安全性を高めることも対応の一つとされています(※4)。
実用的には、「寝言メモ」を1〜2週間つけるのがおすすめです。
寝た時刻、起きた時刻、飲酒、カフェイン、強いストレス、発熱、いびき、呼吸停止、寝言の大きさ、体の動き、けがの有無を書いておくと、生活との関係が見えやすくなります。受診時にも、医師が原因を考える大きな手がかりになります。
どのような場合に医療機関を受診すべきでしょうか? また、何科を受診すればよいでしょうか?
次のような場合は、医療機関で相談してください。
大声で叫ぶ、怒鳴る、殴る、蹴る、ベッドから落ちる、同室者をけがさせる、家具にぶつかるなど、危険な行動を伴う場合。50歳以降に急に寝言や寝ている間の動作が目立ってきた場合。
本人が夢の内容をはっきり覚えていて、それに合わせた行動をしているように見える場合。これらはレム睡眠行動障害を考えるきっかけになります(※3、※4)。

また、激しいいびき、呼吸が止まる、息を吹き返すような呼吸、夜間頻尿、朝の頭痛、日中の強い眠気、運転中や会議中の居眠りがある場合は、睡眠時無呼吸症候群の評価が必要です。
閉塞性睡眠時無呼吸では、睡眠時間を確保していても睡眠の質が低下し、昼間の眠気が出ることがあります(※9)。
日中に週3回以上眠気を感じる成人は3人に1人にのぼるという国の調査もあり、ありふれた症状だからこそ見過ごされやすいのが問題です。
中等症以上を放置すると、高血圧や心血管疾患、事故リスクなどにも関係するため、単なるいびきと軽く見ない方がよいでしょう(※5)。
日本呼吸器学会によれば、成人の睡眠時無呼吸症候群では高血圧・脳卒中・心筋梗塞を起こす危険性が約3~4倍高くなり、重症例では心血管の病気を発症する危険性が約5倍にもなります。
一方で、CPAP(シーパップ)という治療を続ければ、死亡率を健康な人と同じ水準まで下げられることもわかっています。放置すれば危ないけれども、見つけて治療すれば取り返せる病気だということです。
肥満のある人では、減量するだけで無呼吸が軽くなることも多いとされています。
受診先は、まず「睡眠専門外来」が理想です。近くにない場合は、症状に合わせて選びます。
激しい寝言や暴れる動作、パーキンソン病など神経疾患が心配な場合は脳神経内科。悪夢、不安、不眠、ストレスが強い場合は精神科・心療内科。いびきや無呼吸が目立つ場合は呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来が候補になります。
不眠症の背景に睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群などが隠れている場合は、通常の睡眠薬では良くなりません(※7)。
どこにかかればよいか分からないときは、まずはかかりつけ医や近くの内科で相談してみましょう。
受診時には、家族が見た様子が非常に重要です。
本人は寝ている間のことを覚えていないため、「いつから」「週に何回くらい」「どんな言葉を言うか」「手足の動きはあるか」「けがはあるか」「いびきや呼吸停止はあるか」をメモして持参してください。
可能であれば、危険のない範囲でスマートフォンの動画や音声を短く記録しておくと、診断の助けになります。
睡眠中の異常行動の診断では、必要に応じて終夜睡眠ポリグラフ検査、いわゆるPSG検査が行われます(※4)。頭や体にセンサーを貼って一晩眠るだけの、痛みのない検査です。
多くは1泊の入院で行いますが、いびきや無呼吸だけを調べる簡易検査であれば、自宅でできるものもあります。
寝言そのものは、多くの場合こわいものではありません。大切なのは、寝言といっしょに起きている「動き」「いびき」「日中の眠気」に目を向けることです。そこに気づけるのは、たいてい隣で眠っている家族です。
関連記事
<参考文献・情報源>
※1 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠時随伴症」
※2 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
※3 厚生労働省 e-ヘルスネット「レム睡眠行動障害」
※4 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部「睡眠時随伴症」
※5 日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)」
※6 厚生労働省 e-ヘルスネット「こどもの睡眠」
※7 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」
※8 厚生労働省「睡眠対策」(健康づくりのための睡眠ガイド2023)
※9 厚生労働省 e-ヘルスネット「昼間の眠気 -- 睡眠不足だけではなく睡眠・覚醒障害にも注意が必要」
※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。


睡眠中も、脳は記憶や感情の整理をしており、夢を見るレム睡眠だけでなく、深いノンレム睡眠の途中でも、言葉や声に関係する神経活動が一部だけ表に出ることがあります。
多くの方は「寝言は夢を見ている時だけに出る」と思いがちですが、実は夢をほとんど見ないノンレム睡眠中にも生じます。どの段階で出るかによって、もごもごとして聞き取れない声のこともあれば、会話のようにはっきり聞こえることもあります。
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、睡眠中に起こるねぼけ、夜尿、歯ぎしり、悪夢などの望ましくない現象をまとめて睡眠時随伴症と呼ぶと説明されています(※1)。
寝言もこの仲間で、寝ぼけて歩き回る睡眠時遊行症(いわゆる夢遊病)や夜驚症、あとで説明するレム睡眠行動障害も同じグループに含まれます。
なお、寝言だけで、体の激しい動きも日中の不調もない場合は、病気というより正常の範囲の現象として扱われます。
つまり、寝言は「心の奥に隠していた本音が出ている」というより、眠りの途中で脳と体のスイッチが少しずれて、声だけが出てしまう現象と考えると分かりやすいでしょう。
そのため、寝言を聞いて本人の心理を深読みしたり、秘密を探ろうとしたりするのは医学的にも意味がありません。
内容も、会話として筋が通っているとは限りません。短い単語、うなり声、笑い声、怒ったような声、意味のつながらない言葉など、さまざまです。本人はほとんど覚えていないことも多く、翌朝問い詰めても、本人にとっては「まったく記憶にない出来事」です。
寝言は、睡眠不足、精神的ストレス、発熱、寝る直前の飲酒、不規則な生活、夜更かし、強い疲労などで目立ちやすくなることがあります。
これらは睡眠を浅くしたり、夜間の中途覚醒を増やしたりするためです。特にアルコールは、寝つきを良くするように感じても、睡眠の後半を浅くし、中途覚醒を増やすため、眠りが浅くなり寝言や悪夢を誘発しやすい要因になります(※2)。
子どもが熱を出したときに寝言が増えるのもよくあることで、多くは熱が下がれば自然におさまります。