「すい臓がん」になりやすい人の特徴は?医師が解説する“発症リスクを高める要因”と早期発見のポイント

では、どのような人がとくに注意したほうがよいのでしょうか。すい臓がんの発症リスクを高める要因や、喫煙・飲酒・肥満などとの関係、早期発見のために意識したいポイントについて、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックの安江千尋院長に解説してもらいました。
医師紹介
2009年防衛医科大学校医学科卒業。防衛医科大学校病院、自衛隊横須賀病院、自衛隊舞鶴病院などで内科・消化器内科診療に従事した後、がん研有明病院 下部消化管内科にて内視鏡診療・治療を専門に従事。2020年に同病院副医長に就任。2024年12月、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックを開院。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。
目次
すい臓がんの発症リスクが高い人には、どのような特徴がありますか?
すい臓がんは誰にでも起こり得ますが、発症リスクが高くなることが分かっている人もいます。重要なのは、一つの要因だけで判断するのではなく、「年齢」「家族歴・遺伝」「すい臓の病気」「糖尿病」「生活習慣」などを組み合わせて考えることです。

喫煙や飲酒、食生活、肥満などの生活習慣は、すい臓がんの発症リスクにどの程度関係しているのでしょうか?
生活習慣の中で、すい臓がんとの関連がとくにはっきりしているものの一つが喫煙です。

喫煙者では非喫煙者よりすい臓がんの発症リスクが高くなることが多くの研究で示されています。そのため、本人が変えることのできるすい臓がんのリスク因子という意味でも、禁煙は非常に重要です。
一方、飲酒については少し慎重に考える必要があります。「お酒を飲む人はすい臓がんになりやすい」と一律に説明できるほど単純ではありません。
ただし、多量飲酒は慢性すい炎の原因となり得ます。そして慢性すい炎自体がすい臓がんの重要なリスク因子です。その意味でも、過度な飲酒を避けることはすい臓を守るうえで大切です。
肥満についてもすい臓がんの発症リスク上昇との関連が報告されています。肥満だけでなく、インスリン抵抗性や糖尿病などの代謝異常が重なることも関係していると考えられています。
食生活については、「この食品を食べるとすい臓がんになる」「これを食べればすい臓がんを予防できる」と断定できるような特定の食品はありません。
特定の食品を極端に避けたり、いわゆる「すい臓に良い食品」に頼ったりするより、栄養バランスの取れた食事を心掛け、肥満を避け、適正体重を維持することの方が現実的です。
ここで大切なのは、生活習慣だけですい臓がんの発症が決まるわけではない、ということです。健康的な生活をしていてもすい臓がんになる人はいますし、現時点ですい臓がんを完全に予防する方法はありません。
したがって、生活習慣については、「禁煙する」「過度な飲酒を避ける」「適正体重を維持する」という、自分で変えられるリスクをできるだけ減らすことが基本です。
一方、家族歴や慢性すい炎、IPMNなど自分では変えられないリスクを持つ人は、生活習慣を整えるだけで安心せず、必要な経過観察を継続することが重要です。
すい臓がんのリスクが高い人は、早期発見のためにどのようなことを意識すればよいのでしょうか?
すい臓がんの早期発見で最も重要なのは、「全員が同じ検査を毎年受ける」のではなく、リスクの高い人を見極め、その人に適した検査を継続することです。

とくに、IPMNなどのすい嚢胞や主すい管拡張をすでに指摘されている人、慢性すい炎がある人、すい臓がんの濃厚な家族歴やすいがんリスクに関連する遺伝的背景を持つ人などでは、一般の人より注意深い経過観察が必要になる場合があります。
なかでも、一度「すい嚢胞」や「すい管拡張」を指摘された人が、症状がないからと自己判断で経過観察を中断してしまうのは避けたいところです。すい臓の病変は無症状のまま変化することがあるため、医師から指示された間隔で検査を継続することが大切です。
検査には、腹部超音波、CT、MRI/MRCP、超音波内視鏡(EUS)などがあります。それぞれ得意な部分が異なるため、「高リスクだから毎年CTを撮ればよい」という単純なものではありません。
とくに遺伝的にすい臓がんのリスクが高い人では、MRI/MRCPやEUSなどを用いた定期的なサーベイランスが検討される場合があります。
開始年齢や検査間隔は、遺伝子変異の種類や家族内ですい臓がんを発症した年齢などによって異なるため、専門医と相談して決めます。
また、すい臓がんの早期発見では、「がんの塊が見えるか」だけを確認しているわけではありません。ごく早期のすい臓がんでは、腫瘤そのものが画像ではっきり見えないことがあります。
その代わり、すい液が流れる主すい管の狭窄や拡張、すい嚢胞、すい臓の一部分だけが痩せる限局性すい萎縮などの間接的な変化が、診断の手掛かりになることがあります。
こうした変化を捉えた場合には、MRI/MRCPやEUSなど、さらに詳しい検査につなげることが重要です。
一方、「CA19-9などの腫瘍マーカーを毎年測っていれば安心」という考え方には注意が必要です。
早期のすい臓がんでは腫瘍マーカーが正常のことがあるため、腫瘍マーカー単独で早期発見を目指すことには限界があります。同様に、腹部超音波検査も非常に有用な検査ですが、消化管ガスや体格などの影響ですい臓全体を十分に観察できない場合があります。
そして、高リスクの人ほど覚えておいていただきたいのが、「定期検査を受けているから、次回の予約日まで待てばよいわけではない」ということです。
原因の分からない体重減少、黄疸、持続する上腹部痛や背部痛、新しく発症した糖尿病、理由の分からない血糖値の急な悪化などが現れた場合には、予定された検査日を待たずに医療機関へ相談してください。
すい臓がんの早期発見には、残念ながら現時点で「これ一つを毎年受けておけば大丈夫」という検査はありません。
だからこそ重要なのは、「自分のリスクを知る」、「高リスクなら適切な画像検査を継続する」、「検査と検査の間に起きた新しい変化を見逃さない」という3つです。
すい臓がんは早期発見が難しいがんですが、症状が出るまで待つのではなく、“すい臓を詳しく調べるべき人”を適切に見極め、わずかな変化の段階で精密検査につなげることが、現在の早期発見の重要な考え方です。
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※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。


まず、すい臓がんは年齢とともに増加し、若年者よりも中高年以降で多くみられます。
ただし、「○歳を超えたら全員がすい臓のCTを受ける」といった検診方法が確立されているわけではありません。年齢に加えて、ほかのリスク因子が重なっていないかが重要です。
とくに注意したいのが家族歴と遺伝的背景です。親・兄弟姉妹・子どもなど近い血縁者にすい臓がん患者が複数いる場合には、発症リスクが高くなります。
また、BRCA1/2、PALB2、ATMなどの遺伝子変異や、Peutz-Jeghers症候群、Lynch症候群、遺伝性すい炎など、すい臓がんのリスク上昇と関連する遺伝的背景も知られています。
すべてのすい臓がんが遺伝するわけではありませんが、家族内にすい臓がんが複数発生している場合は、「家族歴だから仕方がない」で終わらせず、専門医への相談を検討する価値があります。
持病では、慢性すい炎やIPMN(すい管内乳頭粘液性腫瘍)などのすい疾患が重要です。
とくにIPMNでは、IPMNそのものが悪性化する場合だけでなく、すい臓の別の場所に通常型のすい臓がんが発生することもあるため、症状がなくても適切な間隔で画像検査を継続することが大切です。
もう一つ、ぜひ知っていただきたいのが糖尿病との関係です。
糖尿病はすい臓がんのリスク因子の一つですが、関係は一方向ではありません。反対に、すい臓がんができたことによって血糖値が上昇し、糖尿病が新たに発症することもあります。
そのため、中高年になって急に糖尿病を発症した、それまで安定していた血糖値が理由なく急に悪化した、さらに意図しない体重減少を伴っている、といった場合は、すい臓を調べるきっかけの一つになります。
つまり、すい臓がんのリスクを考える際には、単に「糖尿病がある」「高齢である」と一項目だけを見るのではなく、複数のリスク因子が重なっていないか、そこに最近の体重減少や血糖悪化など“新しい変化”が加わっていないかを見ることが大切です。