なぜ市販薬には購入制限がある?市販薬オーバードーズ(OD)の危険性を薬剤師が解説

この記事では、薬剤師が市販薬の購入制限の背景や市販薬オーバードーズの危険性、そして身近な人がODをしてしまった場合の適切な対応の仕方について解説します。
執筆

専門知識を一般の方に分かりやすく伝える医療ライター/薬剤師。東北大学薬学部を卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に薬剤師として勤務。2022年より医療ライターとして活動。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター1級。マクロビオティック料理とウォーキングを欠かさない生活を心がけている。
目次
なぜ市販薬(OTC医薬品)には購入制限があるのか?
近年、若年層を中心に深刻な社会問題となっている市販薬の過剰摂取、いわゆる市販薬オーバードーズ(OD)。厚生労働省と消防庁の調査によれば、医薬品の過剰摂取(オーバードーズ)が原因と疑われる救急搬送は近年増加しており、特に10代・20代では男女とも一貫して増加していることが報告されています。
市販薬ODへの対処としてはこれまでも省令などにより、若年者への氏名・年齢確認や「原則1包装のみ」の販売規制、厚生労働省による啓発がなされてきましたが、実効性の向上が課題でした。
この状況に歯止めをかけるため、2026年5月に18歳未満への販売制限を設けた改正医薬品医療機器法(薬機法)が施行。これにより、風邪薬や解熱鎮痛薬、せき止め薬など複数の市販薬について、18歳未満が複数個や大容量の薬を購入することができなくなりました。
市販薬オーバードーズ(市販薬OD)が起こる仕組みを解説

市販薬ODの背景には薬の性質と脳のメカニズムが深く関わっています。ここからは、市販薬ODの実態や、副作用との違い、依存症の恐ろしさについて解説します。
市販薬ODとは?「副作用」との違いは?
口から飲んだ薬は消化管で吸収されて血液中に入り、全身を巡って目的の部位へ届きます。目的の部位は薬によって異なりますが、なかには脳や脊髄などの中枢神経にも作用する成分があります。購入制限の対象となっている市販薬には、この脳へ到達する成分が含まれています。
ODとは本来、「決められた量を超えて薬を飲んでしまうこと」を指します。しかし昨今は「脳へ到達する成分」を含んだ市販薬を治療目的ではなく、フワフワした感覚や気分の変化を求めて大量に服用する行為を指す言葉として広く使われようになっています。
薬は正しい量と方法で服用したときに初めて期待する効果が出るよう作られているものです。したがって、どんな飲み方をしても安全というわけではなく、使用上の注意を守ることが大切です。
ODのように許容量を超えて薬を服用し、体に健康被害が生じる状態は「中毒」と呼ばれ、継続することで「薬物依存症」になってしまう可能性があります。
薬物依存症は、薬によって脳の機能が変化してしまう「脳の病気」だといわれ、ダメージを受けた脳は元の状態には戻らないと考えられています。心身にさまざまな異常をきたすだけでなく、最悪の場合は死に至る恐れもある極めて恐ろしい状態です。「市販薬だから安全」という過信は非常に危険なのです。
なお、薬には、本来の目的ではない作用、「副作用」がありますが、これは正しい用法用量で起こる有害事象なので、ODとは異なるものです。
意図せずODする可能性ってあるの?
乱用目的ではなくとも、意図せずOD状態になってしまうケースがあります。原因として考えられるのは、以下のとおりです。
・前に飲んだ時間を忘れて追加で飲んでしまった(記憶・飲み間違い)
・複数の市販薬を同時に飲んだ
・効かないからと自己判断で量を増やした
・複数の病院から似た薬が出ていた
これを防ぐため、お薬手帳の活用や薬剤師による重複確認が重要になります。
【まとめ】もし、身近な人が市販薬ODをやっていたら?
精神科医療施設における市販薬主体の薬物依存患者数は、2012年から2020年で6倍に急増しました。2021年の調査では高校生の約60人に1人が過去1年間に市販薬乱用の経験があると答え、ODは決して珍しい話ではありません。
もし身近な人のODに気づいたとき、「ダメなことだから」と頭ごなしに責めるのは逆効果になる可能性があります。
臨床現場で依存症治療にあたる精神科医の松本俊彦氏は、著書の中で「必要なのは『相談』でなく『雑談』です。そこから信頼関係を」と述べています。市販薬ODする若者たちのなかには、単純な快楽のためではなく、日常生活におけるさまざまな苦しみからの逃避として薬に頼っているケースもあるかもしれません。
決めつけて責めるのではなく、まずは話を受け止め、適切な専門機関の支援へとつなげることが何よりも大切でしょう。
<参考文献>
・厚生労働省医薬局|テーマ④(少子高齢化やデジタル化の進展等に対応した薬局・医薬品販
・売制度の見直し)について(医薬品販売制度)
・厚生労働省医薬局医薬安全対策課|指定濫用防止医薬品の指定について
・北海道科学大学|薬が効く仕組みを解説!効き方の種類や用法用量を守る重要性も
・愛知県薬剤師会|Q3.くすりの副作用について教えてください?
・相模原市薬剤師会|くすりの副作用
・広島県|若年層で増えている市販薬のオーバードーズ (OD) とは?
・薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021/厚生労働省依存症に関する調査研究事業
・厚生労働省|わが国における市販薬乱用の実態と課題「助けて」が言えない子どもたち
・松本俊彦|オーバードーズする子どもたち。なぜ、「助けて」が言えないのか?|合同出版
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